魔窟
魔窟であった。
高校の友達と会った。
高円寺によく行ってたそうだから、
高円寺に行ってみよう、と。
ぐるぐる周りをうろついて、南に行ったり東に行ったり西に戻って更に南下したり。
七つ森という喫茶店に落ち着く。
カレーがおいしく、珈琲とケーキのセットも美味しい。
陰ながらおすすめのところだ。
懐かしい先生の話や、最近共通の友達が結婚したこと、いまの仕事の話など。
高校の美術の横山先生にもう一度会ってみたいなぁ
今あったらあんだけ面白い先生はなかなかいなかったんだろうな。
仲の良い何人かでガンタンクを天ぷらにしたものを自由作品のグループ提出物として認めてくれる先生なんてそういない。
ワケが分からないと思うけれど、当時の友達の発想が天才すぎた。
その美術の先生の友達で、リアルに描いた500円の画をコンクリートの上に置いておいて、それを拾う人たちを写真に撮る人の話は未だに覚えているなぁ。
あと青いつなぎを着ていて当時ネットで流行っていた漫画のキャラに似すぎてた。
二軒目をどうするか。
それを考えていたときに通ってきた道を思い出した。
煌々と輝く「ミニ四駆バー」の文字が、そこにはあった。
ミニ四駆なんてコロコロで烈アンド豪が流行ったときに少しかじったくらいで、
肉抜きすらできない自分には遠い世界だった。
それでも、当時はすごい盛り上がりようだったことは、よく覚えている。
ミニ四駆バー。
その看板を見て直感が告げている。
ここは絶対二度と行かない場所だ。
そして4階へ昇り、店内に入った。
まず、目の前に現れたのはリューター。
研磨するための工具である。
そしてはんだごて。
見たことない車体。
そしてありえない速さで曲がって行く四駆。
入った瞬間にこれは入る店じゃなかったと確信できた。
お店入るじゃん。
まぁ玄人たちとかいたらさ、なんだい冷やかしかいって感じで一瞥をくれるじゃん。
それでこちらとしてはおぉ、玄人しかいないな、みたいになるんだけどさ。
もはや自分のマシンのセッティングにしか興味がないからこちらを見ることもない。
間違いなく一見さんは入ってはならないところだった。
帰ろう、という言葉をグッッッッと堪え、友達を無理やり付き合わせた。
当初は烈アンド豪みたいに友達にミニ四駆を走らせてもらいながら「いっっっけえええええええええええええ」と叫びながらコースを並走してほしかったんだけど、
到底そんな雰囲気ではなかった。
店内は休日恒例のレースの日だったらしい。
もちろん男性客しかいない。歳は30代から40代のアツイ世代だ。
居場所がない完全にモブキャラと化した我々は一通り試走を繰り返すレーサー達を見て、烈&豪の漫画を読む。
ファイター懐かしい。
烈と豪の、気合いでなんとかするそのスタイル、みんな大好きだぜ
そして店内でレースがついに始まった。
コースは荒れ狂った波のよう。
続々とコースアウトしてしまうミニ四駆たち。
確実に走り抜くか、それでも疾さを求めるか、選択を迫られる。
「ここで追い抜くのかー!? ああっとコースアウトー!!」
店員さんの実況に熱がこもる。
ただ、ミニ四駆が速すぎて実況が全然間に合っておらず、それでいて観客もさしてレースを観ていないことは問題だと思う。
8人のファイターが戦い、走り抜け、そして頂点を決めた。
速すぎて見えないレベル。
そして全く盛り上がりはせずすぐに第二ヒートのために準備を始める漢たち。
彼らは一度の勝利になんて満足しないのだ。
クールに、そしてアツく。
己の車体の調整を続けるのみだ。
ほんと第二ヒートなんていらないから本当に帰りたかったけど、
ここで帰ったらなんかモブキャラとしても負けた気がするから第二ヒートも観た。
手持ち無沙汰なので販売しているミニ四駆を見てみる。
店員さんが解説してくれた。
モーターの位置は変遷していて、俺が知っているのは車体の後ろの方にモーターが載っているものだったのだけど。
フロントモーターになっていたり、中央部にモーターを持ってきたりと、時代によって進化しているそうだ。
製品番号が1から始まるのが汎用で売ってるもので、9から始まるのが数量限定品なんですよ。
ありがとう、もう、お腹いっぱいです、ありがとう。
第二ヒートを見届けて、帰った。
帰りのエレベーターでは笑いが止まらなかった。
きっと使わないポイントカードが、また一つ増えた。
高円寺のミニ四駆バー。
どなたか、ぜひ。
〆